地方の企業誘致「独立子会社」のススメ
国が旗振り役を務め2010年代にブームとなった地方創生。一時ブームは下火となっていましたが、コロナ禍によるライフスタイルの変化により“地方”への注目が再燃しています。
こうした地方ブームとセットで語られるのが企業誘致です。自治体は雇用創出や税収増を見込んで大規模な企業誘致を目指しますが、今回提唱したいのは「独立子会社」を中心とした誘致活動。
なぜ地域密着型の独立子会社を推すのか、その理由について解説します。
なぜ地方の企業誘致で独立子会社をススメるのか
地方の企業誘致で独立子会社をススメる理由について順を追って解説していきます。まずはこれまでの企業誘致の現実から紐解いていきます。
地方で繰り返されてきた大規模誘致の失敗
これまで地方の企業誘致では、大手企業の工場やオペレーションセンターといった大規模な企業誘致がターゲットでした。こうした誘致では新規工場やオフィスの設立により大量の雇用が生まれ、そこで働く従業員をターゲットにして周辺地域に新たな経済圏が誕生します。
自治体からすれば雇用創出に加え、税収の増加も期待できます。工場周辺のインフラ整備に取り組めるのも、副次的なメリットです。
しかしこうした大規模誘致では失敗例も少なくありません。自治体の肝入りで誘致した工場が製品のトレンドの変化や、景気悪化により早々に撤退。工場を中心に形成されてきた経済圏はその柱をなくし、一気に縮小を余儀なくされます。
また大規模誘致の弊害として、人的資源の成長が期待できない点が挙げられます。大手企業の工場やオペレーションセンターでは、マネジメント職は本社メンバーが担うといった例も少なくありません。地域の雇用は生まれるものの、いわゆるブルーワーカーの採用がメインとなり、地域経済の未来を担う人材の育成に繋がらない現実があります。
独立子会社は長く地域経済に根付く
そこで提唱したいのが、地方における独立子会社の積極誘致です。
ここでの独立子会社とは、大手企業のグループ企業に属しながらも、独立採算で事業を運営する企業を意味します。
たとえば近年IT企業誘致が活発な宮崎県の株式会社クラフは、SHIFTのグループ企業です。しかし経営は独立した形態を採用しており、グループ内でのノウハウの共有や人材交流はあるものの、あくまでも地域に密着した企業として成長を続けています。
独立子会社のメリットとして、地域に根ざした事業を展開しているため、景気動向の悪化による早期撤退といったリスクを低減できます。「背水の陣」と言えば大袈裟ですが、大企業の工場やオペレーションセンターに比べれば、地元へのコミット具合は大きいといえます。
人的資源が地域経済に残っていく
また、地域に根ざして事業を展開するため、自然と地元の人材を重用する環境が整っていきます。これは将来的に地域経済の発展を担う人的資源が成長するという意味では、大きな価値を持ってきます。
当ブログではこれまでも地方における人的資源の成長には、「成功と失敗を積み重ねる環境」の重要性をご紹介してきました。ビジネスの世界では「1万時間の法則」をはじめ、経験を積み重ねて培われるノウハウやスキルが、成長への不可欠な要素として認識されています。
しかし地方では都市圏に比べこうした経験を重ねる環境が乏しく、結果的に若い世代は都市圏に流出。地域経済はさらに縮小していく負のサイクルに陥っています。
その点独立子会社のように地域に根ざした企業であれば、重要なポストでの経験を積み重ねることができます。また、都市圏からの企業誘致であれば、地方で暮らしながら都市圏水準の案件を経験できる点もメリットです。
こうした経験を重ねスキルとノウハウを身に付けた人材が地元で起業すれば、地域経済の活性化が期待できます。魅力ある企業が地元にもあると分かれば、若い世代にとって新たな選択肢になります。
税制上の優遇をはじめ自治体の取り組みが必要
とはいえ、誘致企業側からすると、いきなり独立子会社として移転・進出するのはハードルが高いといえます。やはり相応のメリットがなければ、誘致活動は進みません。
自治体としてもこうした企業を呼び込みやすい取り組みを設ける必要があります。たとえば、独立子会社として移転・進出する企業に対して、税制上の優遇措置を設けるといった仕組みは検討の余地があります。
また以前取り上げた佐賀県の事例では、誘致を担当した職員が他部署に移動後も企業との窓口になるパーマネントスタッフ制度を採用。「誘致前」の活動に積極的な自治体は多いですが、企業にとっては「誘致後」こそ手厚いフォローを求めています。佐賀県では内情や経緯をきちんと把握した職員が継続して企業を担当することで、他の自治体にはないメリットを生み出しました。
まとめ
今回は地方の企業誘致における「独立子会社」のススメについてご紹介しました。
これまで地方の企業誘致では、大手企業の工場やオペレーションセンターといった大規模な企業誘致が一般的でした。しかしこうした企業が景気動向の悪化により撤退し、それに紐づいていた経済圏まで縮小してしまう失敗例は全国で数多く見られます。
大手企業のグループに属しながらも独立採算制を導入している独立子会社であれば、地域に根ざした事業活動や採用活動に取り組むため、地元との共存関係が生まれます。また、経営陣やマネジメント部門で地元の人材を重用する機会が生まれるため、地域経済にとっては未来の人的資源を育むうえでも効果的です。
コロナ禍以降「地方」ブームが再燃していますが、従来の企業誘致とは違う独立子会社を呼び込む戦略は、これからの地方経済を考えるうえでのヒントになり得るかもしれません。