地方におけるベンチャー支援とは?起業促進よりも大切なこと

今回は地方における、ベンチャー支援のあり方について考察していきたいと思います。ミライラボでも企業や個人のスタートアップ支援に取り組んでいますが、実際に取り組む中で、支援のあり方について考えを巡らす機会も増えてきました。とくに地方と都市圏では、ベンチャー支援のあり方は意味合いが違ってくると感じています。

1万時間の法則から見えてくるベンチャー支援の矛盾

以前に投稿した『1万時間の法則、自律的な地方ベンチャーの輩出』では、地方で安定した事業運営を継続できる“自律的な”ベンチャー輩出には、「成功」と「失敗」の場が必要だとご紹介しました。

1万時間の法則とは、「ビジネスやスポーツ、芸術といった物事を極めるためには、1万時間の経験や練習が必要」とされる考え方です。ビジネスの分野なら1万時間の業務の間に、数多くの「成功」と「失敗」を経験し、ビジネスの勘どころや引き出しを増やせます。

では、現在のベンチャー支援が1万時間の経験を提供できるのかと考えると、疑問符が浮かびます。なぜならベンチャー支援では資金やオフィス環境といった直接的な支援が多く、経験を提供する機会は極端に限られるためです。

経験を積み上げた人材がベンチャーを立ち上げる

実際ミライラボで支援を実施している企業の創業者は、いずれも各分野でそれぞれ経験を積み、自発的にベンチャーを立ち上げたメンバーばかりです。ミライラボが1万時間の経験を提供した訳ではありません。こう考えると、「起業促進に意味はあるのか」という疑問や矛盾に辿り着いてしまいます。

もちろん、資金的な援助やオフィス環境の提供が無駄とは言いません。とくにスタートアップ期は資金調達の面が大きなハードルとなる事実はあるものの、今は資金が少なくてもビジネスを立ち上げ、自己資金で拡大しやすい時代でもあります。

こう考えると、ベンチャー支援のあり方には「新たな視点が必要だ」という考えに至ります。

宮崎で見えてきたベンチャー支援のヒント

こうした問いかけへのヒントとなるのが、宮崎の事例です。

宮崎ではこの10年、自治体が中心となってIT企業誘致を推進してきました。この取り組みで特徴的だったのが、IT企業が集まる環境が育まれた結果、ベンチャーを志す人材が次々と誕生した点です。

多くのIT企業が相次いで宮崎へ移転し、企業間での交流や競争が促され、地方でも都市圏並みの経験を積み上げる環境が生まれました。宮崎発のITベンチャーの登場も地域での盛り上がりを後押しし、多くの人材が経験を重ねていきます。その結果宮崎では、経験を積み上げた人材が自らベンチャーを立ち上げ、地域経済に新たな潮流を生み出しています。

ここから見えてくるのが、ベンチャー支援における“土を耕す”という視点です。

コロナ禍でリモートワークが当たり前になった現在、どこでもビジネスがスタートでき、どのエリアに住む人材でも、そのビジネスに参加していくでしょう。宮崎でのIT業界のように、その地域に経験を積み重ねる土壌があれば、ベンチャー企業の成長スピードや事業のスケール感は大きく変化します。

この“土を耕す”分野にこそ、地方でのベンチャー支援の新たな一手となり得るのではないでしょうか。

まとめ

今回はこれからの地方における、ベンチャー支援のあり方について考察しました。

コロナ禍によりライフスタイルやワークスタイルが大きく変化したいま、地方でのベンチャー支援のあり方は変化しています。従来までの起業促進だけでなく、経験を積み重ねる“土壌”を用意しプラスのサイクルを生み出す取り組みは、ベンチャー支援の新たな一手になり得ます。

宮崎市の事例のように、多様な誘致企業が増え、地方でも都市圏並みの経験を積み重ねる環境が整えば、幅広いスキルを持つ人材プールが生まれます。誘致企業により雇用が増えれば、スキルを持つ人材の母数が増加し、それに比例して起業を目指す人材が増えます。

こうして誕生したベンチャー企業で新たな雇用が生まれ、新たな人材プールが構築される。そこからまた新たな起業家が誕生する…まさに、ポジティブなサイクルを生み出しながら、地域の働き方や暮らし方に新たな価値をもたらします。

時代や社会が大きく変化し、人々の価値観が変わる現代だからこそ、ベンチャー支援のあり方も変わらなければなりません。従来までの起業促進だけに留まらず、未来につながるベンチャー支援のあり方は、一つの可能性と言えそうです。