【2023年上半期】地方でのIT誘致に関するトピック

2023年上半期は「リアル回帰」の時期だったといえます。5月には新型コロナ感染症が5類感染症へと移行し、観光や飲食を中心に大きく人流が回復しました。オンラインが軸であった数年間から、オフラインでの経済活動が戻ってきた時期と呼べます。

こうした中で地方のIT誘致では、半導体業界を中心に工場新設と関連した企業誘致が活発化してきました。工場という「リアル」とリンクした動きが、IT誘致でもトレンドとなっています。

今回は2023年上半期のトピックとして、TSMCの新工場建設に沸く熊本県の事例を取り上げながら、工場新設とIT誘致の関連性について解説します。

半導体メーカーTSMCの進出に合わせて熊本での企業誘致が活発化

2021年10月、台湾の世界的半導体メーカー・TSMCが熊本に新工場を建設すると発表しました。TSMCの時価総額は約63兆円(2023年8月現在)。これは世界トップ10の数字で、業界シェアの約半数を同社が手掛けています。

もともと熊本は半導体関連企業が多く集まる地域として知られ、2021年から半導体関連の企業誘致が活発化していました。そうした勢いをさらに加速させたのがTSMCの新工場建設。熊本県が発表した2022年度の企業立地件数は過去最多の61件を記録し、半導体関連の企業がこの数字をけん引しています。

2023年上半期もこの動きは加速しており、熊本エリアを中心に活発な誘致活動が展開されています。

ITやコールセンターなどオフィス関連が約半数を占める

熊本県の企業立地件数で注目すべきなのが、ITやコールセンターなどのオフィス関連。いわゆるIT誘致に該当する件数が30件と、全体の約半数を占めるている点です。

これはTSMCが呼び水となり多くの企業が同エリアに集まっているため。たとえば、アメリカのシリコンバレーのように、一箇所のエリアに関連するメーカーやサービスが集まれば、技術交流や人的交流の機会が増えます。また同業他社の進出が増え、横の繋がりから優秀な人材を獲得できる雇用面での恩恵も魅力です。

今回のTSMCのケースでは、半導体というITに深く関連した分野である点や、世界的メーカーのネームバリューも追い風となりました。また、コロナ禍を経てリモートワークが一般化し、企業側の地方進出へのハードルが下がったのも一因です。

半導体を中心に工場建設に関連した誘致の動きが再燃

TSMCでは今後日本で2つ目の工場建設を熊本で検討しているとコメント。また、国内企業でも京セラが鹿児島県霧島市に新工場の建設を発表しました。国策として国産での先端半導体製造を目指すラピダスは北海道千歳市に工場を建設するなど、地方経済に大きく影響を与える工場建設の話題が次々と飛び出しています。

霧島市や千歳市では今後、熊本県の事例のように周辺エリアへの企業誘致やインフラ整備が急ピッチで進むと予想されます。

過去の失敗から学びたい地域経済成長への“種まき”の必要性

こうした工場建設に関連した企業誘致の流れは雇用確保と税収増が期待できるため、受け入れる自治体にとってもメリットは大きいものです。一方で工場新設に関連したリスクとして存在するのが、工場撤退による地域経済の衰退です。

過去には大規模な工場誘致に関連して地方一帯に新たな経済圏が生まれたものの、工場撤退により一気にその経済圏が縮小した事例が数多くありました。とくにリーマンショック時はこうした事例が多く、撤退後の地域経済は大きな痛手を受けました。くしくも、リーマンショックの時期は「地方創生ブーム」とリンクしており、自治体が積極的に大規模誘致を推し進めていたのも影響しています。

現在の工場建設ラッシュでも、過去の失敗から学ぶ必要性があります。過度に大手工場に依存するのでなく、地域経済の未来を見据えた動きが必要です。そこで推奨したいのが、地域経済成長への“種まき”です。

本ブログでは『地方の企業誘致「独立子会社」のススメ』と題して、地方の企業誘致には地域に根差した独立子会社が必要であるとご紹介しました。

同記事で独立子会社を推す理由として、人的資源の成長を挙げています。大手企業の子会社では、経営陣に地元の人材が起用される機会が少なく、経験やスキルを磨くチャンスが失われます。一方で、地域に根差した独立子会社であれば、地元の人材を積極的に登用する可能性が高まります。

いわば、地域経済の成長における“種まき”ができる訳です。

まとめ│IT事業は地方と都市圏の二刀流が可能な業界

今回は2023年上半期の地方のIT誘致トピックとして、日本各地で沸騰している半導体工場の新設について取り上げました。

半導体工場の新設では、それと並行して地域経済を支える人材を育てる意識が重要となります。大規模企業に過度に依存するのではなく、共存しながらも自社だけでも戦える土台は持っておくべきです。

とくにIT企業は地方に拠点を置きつつも、都市圏の案件に取り組める強みがあります。新工場建設の恩恵を受けつつも、一方で独自性のある事業を育てておく。自治体でもこうした企業をバックアップし、地方と都市圏の“二刀流”で輝ける企業を育てていくアプローチが、未来の地域経済への重要な投資となります。