なぜ沖縄はIT誘致やスタートアップが活発なのか?

国内屈指のリゾート地として知られる沖縄県。観光が産業の中心ですが、近年沖縄で注目が集まっているのがIT分野です。コロナ禍以降リモートワークや働き方改革が加速し地方都市のIT誘致や企業移転が活発ですが、こうした動きだけでは説明できない勢いが今の沖縄にはあります。

今回はなぜ沖縄でIT誘致やスタートアップが活発なのかについて考察します。

沖縄でIT誘致やスタートアップが注目される5つの理由

沖縄県が提供している情報通信産業(ICT)向けの企業立地ガイドによると、2021年の沖縄県内の情報通信関連企業数は912社。これは2015年の762社から約2割の増加。県外からの立地企業数も501社にのぼり、約4万人の雇用を生む一大産業となっています。

沖縄といえば観光産業をイメージしますが、データからもわかるように近年はIT・ICT関連の誘致や起業が活発で、国内でも屈指のスタートアップ都市として起業家や投資家からの注目が集まっています。

では、なぜこれほど沖縄に注目が集まるのか、5つの視点から見ていきましょう。

1.アジアの主要都市に近い立地環境

沖縄は日本国内はもちろん、アジアの主要都市まで空路で4時間圏内に位置する立地環境にあります。近年ビジネスの世界では、国内にとどまらず海外へ目を向けた事業展開が話題に上がりますが、とくに経済発展が著しいアジア地域との連携は重要なポイントです。

沖縄は成長著しいアジアの各都市とのアクセスに恵まれており、人やモノ、資金や情報といった交流が活発に行われます。情報通信分野は物理的な距離を気にせず事業を展開できる点がメリットですが、フェーストゥフェースだからこそ生まれるアイデアや関係性も少なくありません。こうしたメリットを活かし、世界に打って出る拠点として沖縄は絶好の環境といえます。

2.自治体主導でITインフラの整備を実施

沖縄は官民連携により首都圏と沖縄、アジアを直接接続する海底光ケーブルを整備する「沖縄国際情報通信ネットワーク」をはじめ、「沖縄クラウドネットワーク」や「沖縄情報通信センター」の設置など、他の自治体に類を見ない積極的なITインフラ整備を実施してきました。

これは先に挙げた立地環境のメリットを活かし、アジアビジネスの中継点としての役割を担うのが狙い。長年観光産業に依存してきた沖縄にとっては、新たな産業の創出や雇用の多様化を目指すうえでも、IT・ICTは魅力的な分野だった訳です。

こうしたITインフラの整備は企業誘致やスタートアップにとってはメリットで、首都圏やアジアとの通信網を活かしたボーダーレスな事業展開が可能となります。

3.経済特区ならではの税制上の優遇や支援制度の充実

沖縄県は税制上の優遇措置や規制緩和などの特別な措置が適用される経済特区に指定されています。企業にとってはメリットが大きく、例えばIT企業向けには国内で最高率の所得控除(最大40%)や投資税額控除、固定資産税などの課税の特例などさまざまな優遇措置が用意されています。

これは企業移転やサテライトオフィスの開設、スタートアップ起業を目指す事業者にとっては魅力的で、企業がこぞって沖縄に進出する理由の一つとなっています。実際沖縄では人口に占める開業率の割合が全国1位というデータからも、事業を起ち上げるハードルの低さが見て取れます。

4.ライフワークバランスを意識する人にとって魅力ある自然資源や文化

冒頭で、沖縄のIT誘致やスタートアップの熱量は、コロナ禍の影響だけでは説明できないと述べました。とはいえ、リモートワークや働き方改革の加速が、沖縄のIT産業にとって追い風となったのは事実です。

そもそも沖縄はコロナ禍以前から、リゾート地ならではの自然資源や文化的背景から、移住希望者が多い都市として知られていました。そこで自治体としてもこうした希望者の受け皿となるIT産業を積極的に支援してきましたが、コロナ禍はそれまでの「個人単位」ではなく、「企業単位」での沖縄進出にシフトする契機となりました。リモートワークが全国で市民権を得たため、首都圏にオフィスを構えるメリットが薄くなったためです。またもともとIT企業は物理的な距離を気にせず事業を展開できます。

自治体と企業双方のメリットが合致したことで、沖縄進出が大きな潮流として顕在化したといえます。

5.官民が連携したスタートアップ支援が芽吹きはじめた

沖縄出身の起業家や人材が芽吹きはじめたのも、近年の沖縄では特徴的な動きです。

これまで沖縄ではハードの整備と並行して、官民が連携したスタートアップ支援や、民間が主体となった起業家育成にも取り組んできました。2010年代初めにはすでに取り組みがスタートしており、そこから生まれた人材が今まさに沖縄経済をリードし始めています。

ビジネスコンテストや国内外の起業家やビジネスパーソンを招いたイベントを頻繁に開催するなど、ハードだけでなくソフトへ投資してきた成果が現れはじめています。

まとめ

今回はなぜ沖縄はIT誘致やスタートアップが活発なのかについて、5つの視点から解説しました。

現在沖縄はITやICTを中心とした情報通信産業の一大拠点として注目されています。また魅力あるスタートアップ企業が誕生し、そこにヒトやモノ、資金が集まることで起業家や投資家、感度の高いビジネスパーソンにとって“旬”の情報を得る社交場の役割も担っています。リゾート地として宿泊やレジャーは一流のエリアだけに、交流を図るには絶好の場という訳です。

今回の沖縄の事例では観光×ITという組み合わせでしたが、各地方でも自分達が強みとなる○○×ITという組み合わせは地域経済を活性化させる可能性を秘めています。こうした事例が国内の地方で頻繁に見聞きするようになれば、新たな潮流が生まれるかもしれません。