地方のベンチャー起業に立ちはだかる「村八分」問題を考える

コロナパンデミックや働き方改革の影響を受けて、地方でのベンチャー起業が活発化しています。リモートワークをはじめ都市部に縛られない働き方が社会に受容され、地方での起業は以前にも増してハードルが低いものとなってきました。

その一方で新たな課題として浮上したのが、地域経済との距離感です。野心を持って地方でのベンチャー起業に挑戦しながら、地元の利害関係者との距離感に悩まされる事例は後を絶ちません。関係が悪化し「村八分」のような状況に陥るなど、問題は根深いものとなっています。

今回は地方ベンチャーに立ちはだかる地域経済との距離感や、そこに起因する村八分問題について考察します。

地方経済について回る“母数”の問題

2010年代の地方創生ブーム以降、都市圏ではなく地方に拠点を構える地方ベンチャーが増加しました。ランニングコストが低く、都市部に比べて競争が緩やかな地方エリアは、野心やビジョンを持った経営者にとって魅力的なフィールドです。コロナパンデミック以降はリモートワークが社会に受容され、大手企業の地方移転やサテライトオフィスの設置も加速するなど、あらためて“地方”がバズワードとして注目されています。

その一方で地方経済について回る“母数”の問題に、経営者達は直面し始めています。都市部に比べて地方はヒト・カネ・モノのすべてにおいて母数が少なく、小さなパイを奪い合う状況が生まれます。ここで問題となってくるのが地場産業との競合です。

“母数”の少なさがベンチャーへの「村八分」に発展する

少ない母数を奪い合うとなると、どうしても既存の地元企業と競合が生まれます。新興のベンチャーの登場により、既得権益が奪われるのは、地元企業にとって面白くありません。資本主義社会の日本においてビジネスに競争が生まれるのは当然ですが、地方ではまだまだこうした「ムラ社会的」な文化が残っているのが現実です。

こうした状況が続き地域経済との関係が悪化すると、「村八分」のような状況に追い込まれてしまいます。先頃高知県の移住者カフェの「村八分」問題が話題となりましたが、こうした事例はベンチャー企業にも起こり得る話です。地元イベントへの参加を断られる、集会の案内が回ってこない、ネガティブな噂を流される、など地方で事業に取り組む経営者ならこうした話を耳にした経験もあるはずです。

地方ベンチャーに必要な地域経済との適切な距離感

では、地方ベンチャーに取り組む事業者は、地域経済とどのような距離感を築いていけばよいのでしょうか。

地域にどっぷり浸からないビジネスのあり方を模索する

地方ベンチャーに取り組む場合、地域にどっぷり浸からないビジネスのあり方を模索するのが1つの解決策となります。前述した「村八分」問題をはじめ、その根っこには既得権益が奪われることへの抵抗感があります。ならば、既存の地場産業と競合しないビジネスで勝負するのが、解決策の1つです。

同じ地域の中で少ないパイを奪い合うのではなく、外のエリアからも仕事を取ってくる。こうした仕組みで成功を収めているのがIT事業です。

IT事業はリモートワークや移住ワークとも相性がよく、採用面でも地域人材に依存する必要がありません。社員のライフサイクルに柔軟に対応できるため、多様なキャリアを提案できます。またIT事業の強みは地理的な制約を受けないこと。地方でも都市圏ベースの案件に取り組めるため、給与水準を都市圏ベースに設定できます。加えて、PC1つでも仕事ができるコストパフォーマンスの高さや、設備投資にかかる負担の少なさはITならではの強みです。

まさに地方が抱えるヒト・モノ・カネの課題を解決できる可能性が、IT事業には備わっています。

地方の誘致活動でもIT事業はメリットが大きい

今回は地方のベンチャー起業に立ちはだかる「村八分」問題を考える、と題して地方ベンチャーのついて回る課題について解説しました。

地方では都市圏に比べ、ヒト・モノ・カネの母数が限られています。こうした母数の奪い合いが、地域経済と新興ベンチャーの間で摩擦を生み「村八分」といった状況が生まれてしまいます。

本稿では地方ベンチャーに取り組むうえで、こうした摩擦を生まないIT事業の可能性をご紹介しました。ITのように都市圏の案件をベースにする企業であれば、地場産業と競合する心配がありません。これは既存の企業と新興ベンチャーの間で生まれる不要な摩擦を避けられます。また、IT事業は若者にとって魅力的な職場です。これまで都市圏に流出していた人材が地域に残りそのまま働くとなれば、人口減や若者流出といった課題の解決が図れます。

こうしたメリットを並べていくと、地方の誘致活動においてもIT事業はメリットが大きいと言えます。地場産業との競合を避けつつ、若者にとって魅力あるIT企業を誘致できれば、地域経済へポジティブに作用します。地方での誘致活動では大量の雇用が生まれる工業系の誘致が注目されがちですが、IT事業という選択肢は地方の起爆剤となる可能性を秘めています。