地方でのITベンチャーの可能性。宮崎のアラタナが残したモデルケースを考察する

2007年に宮崎市で創業したアラタナ。2020年にZOZOに吸収合併されるまでの13年間、「宮崎に1,000人の雇用をつくる」というビジョンを掲げ、ITベンチャーとして大きなうねりを生み出してきました。

ZOZOへの吸収合併から4年が経ったいま、アラタナのビジョンは形を変え宮崎の地で生き続けています。地方でのITベンチャーが持つ可能性を、アラタナというモデルケースから考察します。

地方のITベンチャーのモデルケースとなったアラタナ

ITベンチャーが次々と誕生した2000年代。宮崎市で産声をあげたアラタナは、ECを軸としたサービスで事業を拡大。宮崎という地方都市に拠点を置きながら、全国規模でサービスを展開し、地方のITベンチャーのモデルケースとして注目を集めました。

そんなアラタナが当時掲げていたのが「宮崎に1,000人の雇用をつくる」というビジョン。

2007年の創業から2020年にZOZOへ吸収合併されるタイミングで160名にまで拡大。当時ITベンチャーが珍しかった宮崎では異例とも言える数字で、地方経済の拡大に大きく寄与しました。

10人に1人がアラタナから起業し経営者に

ZOZOへの吸収合併により歴史に幕を閉じたアラタナですが、実はそのビジョンは形を変えて現在も宮崎で生き続けています。現在宮崎ではアラタナから巣立ったメンバー達が次々と起業。起業した会社の事業内容もバラエティーに富んでいます。

株式会社クラフ」は情報セキュリティ事業を軸に据え、SHIFTセキュリティのグループ企業として事業を拡大。「1,000人の雇用を、地方に創る」をミッションに掲げ、創業5年で従業員の数は160名に達しています。

株式会社リバティシップ」は、国産サウナブランド・ONE SAUNAの販売をはじめ、宮崎の観光地青島にあるこどものくにリビルドプロジェクトに参画。宮崎の県民にとって古くから馴染みのある施設の再生に乗り出しています。

株式会社リファクトリー」は、鳥獣被害対策グッズを販売するECサイトを運営。またShopifyを中心としてECサイトの構築・運営サポートを手掛けるなど、全国をフィールドに事業を拡大しています。

ITスキルの教育事業や企業研修、Web制作を手掛ける「株式会社まなびと」もアラタナメンバーが創業。Web制作やコンサルティングを手掛ける「株式会社アティックベース」やITインフラ系事業を展開する「株式会社コトログ」、デザイン領域で活躍する「合同会社カメノコ」。Webアプリケーション開発を手掛ける「株式会社SHIP」や、福岡に拠点を置く「カラビナテクノロジー株式会社」の拠点長もアラタナ出身者など、数多くの元アラタナメンバーが宮崎の地で活躍しています。

またアラタナがオフィスを構えていたカリーノ宮崎には、現在もZOZOの宮崎拠点が入居し、地方経済で重要な役割を担い続けています。

アラタナが掲げた「宮崎に1,000人の雇用をつくる」というビジョンは、今もなお宮崎の地で生き続けているわけです。

ITスキルを持っているからこそ地方で戦える

アラタナメンバーが創業した企業や事業に共通するのは、ITスキルをベースにしている点です。これは地方でベンチャーとして勝負するうえで、大きなアドバンテージとなります。

モノ・カネ・ヒトといった資源の絶対量が乏しい地方では、どうしても地場産業との競合が生まれてしまいます。地方における「村意識」のような慣習や慣例は今も根強いまま。新たに参入するベンチャー企業への風当たりはどうしても強くなります。その点ITスキルを生かした領域は全国がフィールドです。地方に拠点を構えながら、全国規模で事業が展開できるため、地場産業と良好な関係性を維持できます。

とくにコロナ禍以降リモートワークが定着した現在では、生活環境に比重を置いて仕事を選ぶ人も少なくありません。物価や人口密度が低く、都市部に比べゆったりした時間が流れる地方の環境は実に魅力的です。こうした環境を求める都市部の人材と、地方のIT企業は相性が良く、人材獲得の領域でもアドバンテージが得られる状況が生まれています。

地方でのITベンチャーの成功は未来の地方経済を担う人材を生み出す

さて、アラタナで蒔かれた種が芽を出し、力強く成長する現在の宮崎。一連の事例は、地方でのITベンチャーが持つ可能性を考察するうえで興味深いものです。

ITの領域は専門的なスキルを持つ人材が育ちやすい環境にあります。前述したように、アラタナメンバーもこのITスキルをベースに現在の事業を創業しています。つまり、地方でITベンチャーが成長すれば、直接的な雇用を生み出すだけでなく、未来の地方経済を担う人材の成長を促せます。

まとめ

今回は地方でのITベンチャーが持つ可能性を、アラタナというモデルケースから考察します。

現在宮崎では、アラタナメンバーが創業したITベンチャーが数多く誕生しています。こうした企業の“熱”に市場も敏感に反応し、都市圏からIT企業の移転やサテライトオフィスの設置が続くなど、ITが地域経済で存在感を増しています。 人口減少や都市部への流出といった逆境にさらされる地方において、ITベンチャーの存在は社会課題を解決する一案となり得ます。アラタナから続く宮崎ITベンチャーの系譜は、そうした未来を予見させるモデルケースと言えるのではないでしょうか。