なぜ九州はIT誘致に成功しているのか?地域での事例を紹介
近年、IT企業の移転やサテライトオフィスの開設を検討する地域として盛り上がりを見せているのが九州です。九州と言えば、恵まれた気候を活かした農業などの一次産業や、観光ビジネスのイメージが強いですが、各地域が企業誘致に積極的に取り組むことで、IT産業が大きく成長を見せています。
今回はなぜ九州はIT誘致に成功したのかを探るべく、各地域の誘致事例をご紹介します。
IT誘致に積極的な九州の4つの地域
これまで九州のIT誘致と言えば福岡市が有名でした。コンパクトシティとして都市機能が一箇所に集約されており、アジアの玄関口として海外とのビジネスにも有利な立地環境が整っています。大手IT企業が進出することで相乗効果が生まれ、次々と魅力ある企業の移転やサテライトオフィスが開発されてきました。
しかし近年、福岡市に集中していたIT進出の流れが、九州全域に広がっています。具体的な地域事例を見ていきましょう。
1.北九州市
九州のIT誘致で大きな成功を収めているのが、福岡県の北九州市です。福岡第2の都市として知られる北九州市は、これまで工業都市として長い歴史を紡いできました。しかし近年は中国をはじめとした海外企業の影響を受け、工業が衰退。これに合わせて人口減少も課題となっていました。
そこで北九州市は新たな産業促進と雇用の確保を目指して、平成26年度からIT誘致活動に注力。平成26年から令和2年までの7年間で増設含む合計70社(うち新規50社)のIT誘致に成功しました。
自治体による助成金や優遇制度の充実はIT誘致に大きく貢献していますが、これ以外にも北九州ならではの地域性が背景にあります。
まずもともと工業都市として発達してきた歴史から、北九州には工業系の大学や専門学校が多く集まっています。企業にとっては質の高いIT人材の確保が見込め、進出を決断する上でのメリットとなりました。また、北九州の郊外には豊かな自然が残っており、門司などのレトロな街並みがあります。社員の生活や子育て環境の充実が図れる上、自治体の移住支援や子育て支援が充実している点も強みとなりました。
【代表的な誘致企業】
- Yahoo! JAPAN(ITソリューション)
- GMO(IT関連事業)
- 株式会社ラック(Wenセキュリティ)
2.宮崎市
南国情緒ある観光都市として知られる宮崎県宮崎市も、近年IT企業が続々と集まる地域です。
宮崎市では中心市街地の空洞化が深刻化し、若者の県外流出が大きな課題となっていました。そこで2015年からICT誘致活動に乗り出し、10年間で3,000人の新たな雇用を創出する「”マチナカ3000″プロジェクト」をスタート。助成金制度の充実や誘致活動はもちろん、温暖な気候や物価が安く暮らしやすいといった環境的な要因も追い風となり、わずか6年後の2020年には2,800人の新規雇用創出を実現しました。
IT企業にはGMOや電通、コドモン、UUUMなど有名企業が名を連ね、地域経済の活性化や雇用促進に大きく貢献しています。とくにサテライトオフィスの開設が多く、IT企業にとって魅力ある土地へ変化していると言えそうです。
【代表的な誘致企業】
- GMO(IT関連事業)
- UUUM(ITエンタメ事業)
- コドモン(ICTプラットフォーム事業)
3.佐賀県
佐賀県も九州でIT誘致に成功した地域の一つです。
同県では、DX化が本格化する時代に向けて、従来までの工場誘致が中心だった取り組みをIT企業にまで拡大しました。オフィスビルの整備や助成金の充実など受け入れ体制を充実させた他、独自の取り組みとして「パーマネントスタッフ制度」を採用。これは誘致を担当した職員が他の部署へ移動となっても、継続して企業との窓口役を務める制度です。誘致して終わりではなく、アフターフォローを充実させることで安心して移転やオフィス開設を決断できる環境を整えています。
この取り組みは成果に表れており、2018年度わずか2社だったIT企業の誘致件数は、2019年には14件まで増加。翌2020年も11件の誘致に成功するなど、IT誘致で大きな実績を収めています。
4.沖縄県
最後にご紹介するのが沖縄県です。
リゾート都市として知られる沖縄県は観光産業のイメージが強いですが、実はIT産業も活発な地域です。
同県では地場産業が少ない状況を打破すべく、1998年に「マルチメディアアイランド構想」をスタート。ITという地理的な要素に左右されない産業を増やすことで、地域経済の活性化や雇用の獲得を目指しました。
2012年からさらなるIT企業の増加や人材の確保を目指して、「おきなわ Smart Hub 構想」を開始。アジアとの距離が近く、地震災害のリスクが低い沖縄が日本におけるITのハブの役割を担うことで、全国に存在感を示すことを目指しました。
こうした地道な取り組みが実を結び、県外IT企業の進出や新規創業が増加。とくにベンチャー企業の創業が相次ぐなど、“沖縄発”の企業が続々と登場しています。沖縄県でのIT従事者は2020年に3万人を突破し(1990年は21,000人)、今後もさらなる賑わいを見せそうです。
【代表的な誘致企業】
- 株式会社モノクラム(Web広告)
- Payke(インバウンド向けアプリ)
まとめ
九州のIT誘致の事例では、地域の特性を活かした取り組みが多くみられました。九州は各地域のカラーに特徴があり、多様性に富んでいます。コロナ禍や働き方改革の影響を受けて、「どこで働くか」が問われる時代ですが、温暖な気候や食文化がある九州は、働く人にとって魅力的な選択肢となっています。
また今回の事例では、いずれの地域でも継続した取り組みが成果につながっています。IT企業側からすれば、移転やサテライトオフィスの開発は一大プロジェクトです。「地域が本気でIT企業を欲しているのか」という部分を見定める上で、取り組みの継続性は大切な要素となってきます。