【東日本版】IT誘致に積極的な地域の事例を紹介

IT企業の誘致に向けて、各地の自治体や地域が特色ある取り組みに打って出る事例が増えています。これまでも、雇用の促進や若者の都市部への流出阻止といった目的からIT誘致は注目されてきましたが、近年はここに“多様な働き方の提案”や“ワークライフバランス”といった新たな目的が加わっています。

今回は実際のIT誘致の取り組みを考察する上で参考となる、東日本でIT誘致に積極的な地域事例をご紹介します。

東日本でIT誘致に積極的な地域事例4選

以前に掲載した記事では西日本でIT誘致に積極的な地域の事例をご紹介しましたが、今回は東日本の事例をご紹介します。東日本でも、西日本同様に独自の取り組みで成功を収める企業が増えています。

さっそく、具体的な事例を見ていきましょう。

1.青森県

地方都市の共通課題とも言える人口減少への取り組みとして、青森県ではIT企業の誘致に力を入れています。IT誘致によるサテライトオフィスの開設や新規創業を促進し、定住者や雇用を増やすことが狙いです。

取り組みの一環として同県では、2015年度からIT企業経営者やクリエーターなどを対象にした「青森ITワーク調査モニターツアー」をスタートしました。取り組みでは青森での事業化や移住に関心がある企業や人材に2週間程度滞在してもらい、実際に地域の暮らしをモニターしてもらいます。指定のコワーキングスペースを無料で利用しながら、青森の魅力を肌で感じてもらうのが狙いです。

地方への移転やサテライトオフィス開設を検討する企業にとって、人や環境といった地域との“相性”は重要なポイントとなります。モニターツアーを通じて直接見聞きした情報は、企業の決断を後押しする貴重な材料となり、誘致や新規創業へつながりました。

【代表的な誘致企業】

  • コンシス(Webコンサル)
  • ゲームスタジオ(ゲーム開発)

2.新潟県

新潟県もIT誘致に積極的に取り組む成功事例の一つです。

同県がIT誘致に取り組む背景として、深刻な人口減少と若者の県外流出が挙げられます。そこで新潟県と新潟市は連携してIT誘致を強化。IT企業向けの補助金制度の新設や優遇制度の充実、IT立地セミナーをオンラインで開催するなど、新潟県へのIT誘致を活発化させました。

こうした取り組みは他の地域や自治体でも多く見られますが、新潟県が成功を収めた背景には、地域ならではの特色がありました。

新潟県にはIT・情報系の大学や専門学校が14校あるものの、卒業生が就職先に選ぶIT企業が不足していました。学生はそのまま県外で就職してしまい、若者の人口減少に拍車がかかっていました。自治体ではこの部分を誘致企業にアピール。企業としても質の高い地元の人材を地域から獲得できるとあって、双方にWin-Winの関係性を築くことができます。また、新潟の県民性である実直さや離職率の低さも企業にとっては魅力的で、多くのIT誘致が実現しました。

【代表的な誘致企業】

  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(Web広告)
  • イマジカデジタルスケープ(ゲーム・Web制作)

3.仙台市

東北地方の政治・経済の中心地として知られる仙台市。東日本大震災による甚大な被害を受けた地域ですが、自治体や内閣府の積極的な取り組みで大手IT企業が続々と集まる“シリコンバレー”化が進んでいます。

仙台市では2017年にIT企業誘致向けの「企業立地促進助成金」をスタート。また2020年には内閣府が主導する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の8都市の一つに選ばれ、研究開発環境の充実や優秀な人材が集まるといった好循環をもたらしています。

また近年は大手IT企業が進出したことで、オフィス街の開発が進んだ点もIT誘致が加速した理由です。大手企業が進出すれば、それに紐づく形でコールセンターやバックオフィス業の需要が増えます。仙台駅周辺や西口はこれまでもオフィス街として歴史がありましたが、近年は東口の開発が著しく、街そのものがIT企業にとって魅力ある環境へと変化しています。

【代表的な誘致企業】

  • メルカリ(フリマアプリ)
  • 株式会社シーエー・アドバンス(インターネットサービス業)

4.長野県

最後にご紹介するのが長野県です。長野県では2019年から「信州ITバレー構想」を掲げ、DX時代の担い手となる企業や人材の誘致に積極的に取り組んでいます。

もともと長野県は自然豊かな地域として観光需要や移住需要が高い地域です。また、首都圏・中京圏・北越地域の各エリアの結節点としてハブの役割を担うなど、地理的なメリットを持っています。

同県ではこうした強みを活かしつつ、新たな産業と雇用の推進を目指してIT誘致に注目。オフィス使用料や助成金を活用しつつ、長野県で実際に暮らしながら仕事をする「おためしナガノ」や、各種助成金の充実、スタートアップ創業支援など次々と新たな取り組みを発信し、IT誘致に力を入れています。

【代表的な誘致企業】

  • 株式会社Hajimari(IT創業・人材支援)

まとめ

今回ご紹介したIT誘致に積極的な東日本地域の事例では、モニターツアーやおためしワークといった施策が目立ちました。

都市部の喧騒から離れ、地方で穏やかに生活したいというニーズは多いですが、一方で地域性やコミュニティに馴染めず、都会に舞い戻ったという話は地方移住の“あるある”です。とくに事業会社が地方移転やサテライトオフィスの開設を検討するとなると、地域性や人との“相性”は、事業の成果に直結する重要なポイントとなるでしょう。

各地域がモニターツアーやおためしワークに積極的に取り組むのは、こうした事業者側の不安や懸念材料を払拭するのが目的です。実際に仕事をしながらその土地での暮らしを体験してもらうことで、安心感や納得感を訴求できるかが、今後のIT誘致では一つのキーワードとなってきそうです。

地方都市にとってのIT企業誘致。地方と企業、双方のメリット。