アフターコロナの時代に地方での正社員採用をどう進めるのか?

コロナ禍の終息が近づくにつれ、企業の採用活動も本格化しています。ここ数年は正社員の採用を見送っていた企業も活動を再開するなど、以前の活況を取り戻しつつあります。

一方で厳しい状況が続いているのが地方での正社員採用です。地方では少子高齢化や都市部への人口流出により、以前から正社員採用で後手を踏んでいました。さらに、コロナ禍以降は在宅ワークの定着により、さらに厳しい状況に陥っています。

今、地方の正社員採用の現場でなにが起こっているのでしょうか?今回は地方での正社員採用の現状とコロナ禍以降の課題について解説します。

地方での正社員採用に立ちはだかる3つの壁

帝国データバンクが2023年3月20日に発表した『2023年度の雇用動向に関する企業の意識調査』よると、正社員の「採用予定がある」と考えている企業は63.0%(前年比0.8ポイント増)にのぼり、2年連続の上昇傾向にあることが分かりました。

コロナ禍の終息が近づき企業活動が活発化。一時は正社員採用を見送っていた企業も活動を再開するなど、経済活動が徐々に回復し始めているのが伺えます。

一方で同調査では、原材料の高騰や人口減少が影響し、地方での採用活動は厳しい状況にあるとも言及。とくに正社員採用では3つの壁が立ちはだかります。

1つは少子高齢化による人口減少です。働き手となる労働人口の減少は深刻で、とくに地方では少子高齢化や人口流出が進み採用できる母数が減少しています。2つ目は若年層の都市部への流出。地方では若い世代にとって魅力的な企業が限られており、都市圏へ職を求める人も少なくありません。都市圏は生活水準や文化水準が高く、これも若い世代にとっては魅力的な要素です。

そして3つ目が、コロナ禍による在宅ワークの増加です。直近で地方の正社員採用が難しくなっている背景には在宅ワークが大きく影響しています。この点についてもう少し深掘りしてみましょう。

コロナ禍の在宅ワーク増加により仕事と移住がセットでなくなった

コロナ禍以前に地方へ移住する場合、移住先での新たな仕事を探す転職がセットになるのが一般的でした。地方企業もこうしたUターン・Iターン人材の獲得に力を入れ、正社員採用を進めるケースが多く見られました。

しかしコロナ禍の到来により、多くの企業が在宅ワークを採用。とくにオフィス勤務で対応できる職種は在宅ワークへの切り替えが早く、「出社せずに仕事をする」生活が当たり前となりました。

この変化は地方の正社員採用に思わぬ影響を与えます。そもそも会社に出社せずに仕事ができるなら、地方へ移住しても転職する必要がありません。わざわざ新しい職場を探すより、今の職場に残ってスキルアップやキャリアアップを目指す方がメリットが大きいからです。

都市圏ベースの賃金で働けるのも魅力的で、「今の職場に残ったまま、地方で暮らす」選択肢が生まれました。会社側にとっても、経験を積んだスキルの高い社員を失わずにすみ、両者にとってWin‐Winの関係が成り立ちます。

一方地方にとっては、従来までのUターン・Iターン人材の獲得が減少し、正社員採用がさらに厳しくなります。コロナ禍以降、都会の喧騒を離れて落ち着いた生活環境を求める地方移住が注目されていますが、それが必ずしも地方での正社員採用に直結していないのが現状です。

地方の正社員採用はどう取り組むべきなのか

ここまで在宅ワークの定着が、地方での正社員採用をより難しくしている現状をお伝えしました。では、地方の企業はこれからどのような対策を講じていく必要があるのでしょうか。

アイデアは大きく2つ考えられます。

1.ジョブ型採用で未経験を育成する

1つ目はジョブ型採用と未経験育成のミックスです。

ジョブ型は専門スキルが高い人材向けのイメージが強いですが、企業側がきちんとした研修制度や業務の仕組み化を取り入れれば、未経験からの採用も十分に可能です。ハイスキルな人材を都市部の企業と取り合うのではなく、地元や近隣地域の未経験社員をターゲットにし、採用活動を展開していきます。

成功事例としてご紹介したいのが、宮崎県に本社を構える株式会社KRAF(クラフ)です。同社は脆弱性診断をはじめとした情報セキュリティ企業で、創業から約5年で145名の従業員規模へ成長しました。

特徴的なのが、情報セキュリティという専門性が高い企業でありながら、未経験の採用を積極的におこなっていること。グループ企業のSHIFT社のノウハウも活かしつつ、研修制度の充実や業務の仕組み化を徹底し、未経験からでもしっかりと戦力になる環境を整え、採用活動を成功させています。

ジョブ型の強みである職能に応じた昇給やキャリアアップが明確に提示されている点も強み。また在宅ワークを採用し、柔軟なワークスタイルやライフスタイルを実現できる点も評価されています。

2.在宅ワークを前提として地方以外の人材を採用する

2つ目は在宅ワークを前提として地方以外の人材を採用する方法です。

今後リアルでの経済活動が活発になっても、在宅ワークを軸とした働き方は増加すると予想されます。

当初は戸惑いも多かった在宅ワークですが、実際に導入すると問題なく業務が進み、オフィス勤務が「絶対的なものでない」ことが明らかになりました。こうした働き方が今後も軸となるなら、在宅ワークを前提とした人材の採用を企業も検討する必要があります。

社員には現在の居住地で暮らしながら、リモート環境で業務に取り組んでもらう。オフィスや土地といったリアルな環境に縛られることなく、柔軟性の高い勤務形態を用意して採用活動に繋げていきます。

副業や兼業を推奨するといった取り組みも、柔軟性の高い勤務形態を提供するうえでは、見当の余地があるでしょう。

まとめ

今回は地方での正社員採用の現状について、在宅ワークの増加に注目して解説しました。

コロナ禍により在宅ワークが定着し、地方での正社員採用の柱であったUターン・Iターン人材の獲得が難しくなりました。今後もこの流れは加速すると予想され、地方企業の正社員採用は大きな変化を迫られています。

とはいえ、企業も社会を構成する一つの要素と捉えるなら、その時代や価値観に応じて体制や取り組み方を変化させなければなりません。すでに若い世代は「リモート環境の有無」を企業選びのポイントに据えています。今後、能力の高い人材を確保するためにも、在宅ワークを念頭に置いた採用活動のあり方を模索する必要がありそうです。