地方都市にとってのIT企業誘致。地方と企業、双方のメリット。
近年、地方都市が積極的にIT企業を誘致する動きが増えています。地方にとって企業誘致は雇用の促進や経済活動の活性化というメリットがありますが、ここ数年のトレンドでは企業側も地方への移転やサテライトオフィスの開設に前向きな姿勢が伺えます。
今回は、地方都市がIT企業を誘致するメリットと、企業が地方へ移転するメリットについて解説します。また、なぜ地方都市でのIT企業誘致が加速したのか、その背景を見ていきましょう。
地方都市がIT企業を誘致する3つのメリット
まずは地方都市がIT企業を誘致するメリットから見ていきましょう。メリットは大きく次の3つです。
- 雇用の確保や経済の活性化
- 産業構造の多様化
- 移住促進や人口流出の抑制
1.雇用の確保や経済の活性化
地方都市がIT企業を誘致するメリットとして、雇用の確保や経済の活性化が挙げられます。年々地方経済は縮小傾向にあり、とくにこれまで日本を支えてきた工業分野は、グローバル化により海外移転が加速しました。その点IT分野はこれから国内での成長が期待でき、地方都市にとっては雇用を創出する起爆剤となります。企業誘致が進めば、税収の確保や地域経済への波及効果が期待できる点もメリットです。
2.産業構造の多様化
総務省が発表した統計によると、IT企業の約8割は大都市圏に集中しています。地方都市ではまだまだIT企業が少ないといえますが、IT企業を誘致できれば産業構造に多様性を持たせることができます。地方では都市によってそれぞれ特色のある産業構造を持っていますが、一方で業種や職種が偏ってしまう点が課題とされてきました。ITという新たな企業が加わることで、地方に新たな価値観や職業観を生み出すことができます。
3.移住促進や人口流出の抑制
最後に、IT企業の誘致により大都市圏からの移住促進につなげることができます。地方の人口減少は社会課題の一つですが、都市部からの移住が進めば人口減を抑制でき、新たなコミュニティの創出が期待できます。
また地方都市で生まれ育った人材が、ITという魅力的な仕事に出会うことで都市部への流出を思いとどまる点もメリットといえそうです。地方都市ではトラディショナルな産業が多く、若年層はより刺激的な仕事を求めて都市部へ流出する傾向にあります。IT企業を誘致し、地元でも魅力ある働き方ができると知れば、「地元で就職する」という新たな選択肢が生まれるでしょう。
IT企業が地方へ移転する3つのメリット
次にIT企業が地方への移転やサテライトオフィスを開設するメリットについて見ていきましょう。
- コストを削減できる
- 社員のワークワイフバランスを整えられる
- 地方自治体の支援を受けられる
1.コストを削減できる
IT企業が地方に移転するメリットとして、コストを削減できる点が挙げられます。企業にとって都市部のオフィス賃料は大きな負担で、少しでも固定費を削りたい企業にとっては、地方の安価な賃料は魅力です。また、都市部に比べ時給や給与の水準を抑えることで人件費も抑制できます。
こうした思い切った舵取りができるのはIT企業の強みです。オフィスを持たなくてもリモート環境が整っていれば、全国どこでも仕事ができます。オフィスはある種のシンボリックな存在として活用し、地方都市から都市圏ベースの案件に取り組むことが可能です。
2.社員のワークワイフバランスを整えられる
仕事と生活のバランスを意識した働き方としてワークライフバランスが見直されていますが、IT企業の地方移転は社員のワークライフバランスを向上させるメリットが得られます。
都市部での長時間の電車通勤や、オフィス街での慌ただしい生活を離れ、地方で心穏やかに暮らしたいというニーズは年々高まっています。例えば、「本社は東京に残しつつ規模は縮小し、地方にサテライトオフィスを開設して勤務地する」といった取り組みは、社員にとって実に魅力的です。勤務地が選択制にできれば、採用においても自社の強みとしてアピールできます。
近年はワーケーションといった働き方も増えており、地方都市を上手に使うことで、社員の生産性向上につなげることができるでしょう。
3.地方自治体の支援を受けられる
冒頭で地方都市がIT企業を誘致するメリットをご紹介しましたが、地方自治体では地方への移転やサテライトオフィスの開設を実施する企業への支援制度を設けています。
例えば宮崎市では、情報サービスやインターネット付随サービスなどを対象として最大1億円の「立地企業助成金」が設けられています。その他にも、「オフィス等賃借助成金」や「テレワーク事業者助成金」といったIT企業向けの支援制度が用意されており、IT企業誘致に積極的です。こうした地方自治体のバックアップは企業が移転を検討する上で魅力的な材料といえます。
なぜ地方都市でのIT企業誘致が加速したのか
最後に、なぜ地方都市でのIT企業誘致が加速したのかについて解説していきましょう。
首都圏への一極集中を是正し、地方の人口増加や経済活性化を目指す政策として掲げられたのが「地方創生」です。2014年に当時の内閣が主導したこの取り組みは、話題性もあり一定の成果を上げたものの、IT企業が本格的な地方移転を目指すまでには至りませんでした。
この流れが大きく変わったのが、2020年初頭から感染が拡大したコロナパンデミックです。日本でもリモートワークや時短勤務が推奨され、私たちの働き方は大きく変化しました。とくにデジタルツールと親和性の高いIT企業は、もともとリモートワークを採用しており、脱オフィス勤務の流れが一気に加速しました。
またワークライフバランスを重視する働き方改革の影響で、企業側も社員のモチベーションにつながる就労環境を整える必要に迫られました。地方都市でのワーケーションやリモート勤務は、多様な働き方を提供したい企業の思惑と合致した点も地方都市へのIT進出が増加した理由です。
まとめ
コロナパンデミックを契機に、私たちの働き方は大きく変化しようとしています。とくにIT企業はデジタルツールとの親和性が高く、業務内容も場所を選ばない強みを持っています。誘致を目指す地方都市からしても、新たな雇用の創出や地方移住を促す起爆剤として期待でき、双方にWinWinの関係が成り立ちます。
全国ではITを軸に据えた企業誘致に積極的な自治体が続々とあらわれており、今後の展開に期待が高まります。